ひょうご被害者支援センターは犯罪・犯罪に類する行為などで被害に遭われた方、そのご家族やご遺族に対して支援を行っています。

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ニュースレター

Vol.17 発刊日 2012年2月

 平成23年11月19日(土)13時30分、パレス神戸にて平成23年度ひょうご被害者支援センターシンポジウムが開催されました。当日は雨模様でしたが、100名程の参加がありました。「犯罪被害者が受ける社会からの二次被害~風評被害を受けた被害者の訴え~」というテーマでの基調講演、パネルディスカッションに会場の皆様は熱心に耳を傾けて聴いておられました。
ニュースレター17号では、このシンポジウムの特集として基調講演とパネリストの方々のお話を掲載いたします。(紙面の都合上まとめたものを掲載させていただきます)

●シンポジウム基調講演
風評被害を受けた被害者の訴え―文京区幼女殺害事件―被害者の祖父は訴える

講師 全国犯罪被害者の会(あすの会) 代表幹事代行 松村恒夫

 風評被害とは?と考えた時、例えば、最近間題になっている福島原発の放射能汚染についての風評被害であるとか、チリで炭坑から奇跡的な生還をした人のその後であるとか、あるいは芸能人や政治家などの風評被害が思い浮かびますが、一番間題になりますのは、一般の人が誤った報道によって、被害を受けるということではないでしょうか。私の場合には、娘の虚像が報道され、娘は人権侵害にあいました。すなわち、風評被害とは、事実でない報道によって被った人権等の損害といえるのではないでしょうか。
私どもの事件は、1999年11月22日に東京都文京区音羽の護国寺の境内にあります幼稚園で起こりました。もうすぐ13回忌を迎えます。年月は人の心を癒すと言いますが、決してそんなことはありません。高等裁判所までいき、その結果懲役15年という判決が下されましたが、孫娘が殺された本当の理由がはっきりしなかったので、損害賠償請求裁判を起こしました。判決は出ましたが実際にはほんの一部しか支払われておりません。しかし、孫娘の死んだ11月22日の日に因み毎月22日に支払いを命令した月賦払いを認めさせたことはそれなりに意義があったと思っています。
私どもの事件での大きな問題は、被害者の母親の虚像が独り歩きしたことでした。そのために名誉棄損の裁判を起こすことになりましたが、一般の人が訴えたのは初めてのケースだと思います。
事件が発生して2日目以降、公開捜査になったとたん、マスコミが殺到してきました。犯人が逮捕されてからも、メディアスクラムがすごく、葬儀は取材協定を結び厳かに行われましたが、マンションの前はマスコミの車でいっぱいでした。その後、家族が警察検察に協力している間に、マスコミの取材攻勢はエスカレートして、知らぬ間に、犯人と母親の間題に焦点を当てた報道が数多くなされ、真実でない酷い母親像が流されていきました。
全国から「次はお前の番だ」などと、子どもを失った親の心の上に塩を塗り込むような葉書が届くようになり、娘は人間不信になり、最後にはいつ襲われるかもしれないという恐怖心が募っているような状態でした。
結果的には、やまないメディアスクラムに対して、弁護士へ依頼することになりました。弁護士会ではプロジェクトチームを作ってくれ、2002年8月から名誉棄損の裁判が始まりました。そして、小学館・光文社との和解、週刊文春との和解となりました。各誌の謝罪/車内吊広告によりわずかながらの名誉回復はできたとは思いますが、週刊誌は和解金の額よりも、嘘でもなんでも書いて売れた方がいいんだという風に思いました。
国連の「被害者の為の正義に関するハンドブック」には、●犯罪内容の報道は、公平かつ客観的にバランスを考慮して行うべきであり、ニュースに過剰な表現を採用するのを避けるべきである●被害者と犯罪者の関係を反映している犯行については、バランスのとれた視点から報道すべきである●被害者、犯罪者あるいは犯罪については、信頼できる情報源によって証明されない限り、噂や暗示的内容を報道してはならないと書かれています。
報道被害をなくすためには、報道は「速さより正確な情報である」「被害者の人権を尊重する」「充分で速やかな訂正や謝罪」「被害者とマスコミの間にコーディネーターが必要ではないか」「報道の自由と責任をマスコミは自覚せよ」「実名/匿名報道は被害者の判断に」ということが考えられるのではないでしょうか。報道被害は被害者の終身刑であるということ、一度報道被害を与えてしまうと、それを回復することはほとんど不可能だというのが今の現実です。ですから、報道被害を与えないような報道をしていただきたいと切にお願いする次第です。

土師守氏(全国犯罪被害者の会(あすの会)副代表幹事・六甲友の会会員・当センター監事)

 風評被害という場合の多くは報道被害に尽きると思います。報道被害は、大きく分けて、取材という行為による直接被害と報道された内容による被害があります。
取材という行為による直接被害についてですが、私たちの子どもの事件の場合、最初に被害に遭ったのは、須磨警察署で子どもの遺体の確認をした後、帰宅した時でした。非常にショックを受け精神的にも肉体的にも最悪の状態だった私たちを、マンションの前で待ちかまえ、質問し、至近距離でフラッシュをたいて写真撮影をしていました。さらに、電話やインターホンは鳴りっぱなし、自宅の周辺はマスコミ関係の車で埋め尽くされてしまい、私たち家族は外出もままならない状況に追いやられました。学校や職場に通うということも、警察や学校の助けを借りなければならず、通常の生活を送ることができないという直接的な被害を受けました。
報道された内容についての被害ですが、これも二つに分かれます。一つ目は報道されることそのものによる被害です。私たちの場合、名前や職業、プライバシーに関することが連日報道されました。私たちの子どもの事件は特異な事件だったので、世間の人たちにとっても興味の的だったと思います。そのような状況の中で、私たち家族の実名等が報道されてしまい、私たちは何事も知らないのに、世間の人たちは私たちが何者かを充分に把握している状況、まるで動物園の檻の中の動物と同じ構造となっていました。過剰に報道されることにより、被害者は精神的に厳しい状態に追い込まれてしまいます。
もう一つは、誤った内容の報道をされることによる被害です。犯人探しの過程の中で、私の仕事のトラブルや素行に原因をのべた報道がありました。間違った報道をされてしまいますと、私自身に対する間違った印象が一般の人の中に出来上がってしまい、固定されてしまいます。いったん刷り込まれた記憶を変更することは極めて難しいことです。このことも被害者にとっては本当に厳しい精神的苦痛を与えると思います。
報道された内容の真偽を間うだけでなく、たとえそれが事実であっても、被害者にとって報道されてほしくない内容である場合、それも報道被害であるということです。
風評被害というテーマでしたので、報道関係の方には厳しいことを言ってしまいましたが、私たちの子どもの事件が発生した14年前と比べて、現在は非常に改善してきていると思います。今後も報道の真を損なうことなく、なおかつ被害者のことも考えた事件報道を確立していただくよう、報道関係の方々にお願いしたいと思います。

木村倫太郎氏(弁護士)

 報道による被害は大きく2つ、取材行為そのものが引き起こす問題と、報道された内容の間題に分けられると思います。取材行為の問題について、被害者を囲んでマイクやカメラを向ける、いわゆるメディアスクラムはここ10年で相当減ったように伺っていますが、被害者の知人親族をかぎまわって卒業アルバムを借り出したり、誘導しつつ興味本位のエピソードを聞き出していくといった強引な取材は、今でも続いています。
報道内容の間題としては、誤った情報や事実であったとしても、報道する必要のない興味本位の惰報が出されてしまうことで、いわゆる風評被害が発生します。
報道被害を考えるに当たっては、報道の自由の尊重をよく考えなければなりません。憲法上「表現の自由」が保障されており、マスコミには報道の自由、前提となる取材の自由、そして有効に取材をするためにニュースソースを秘匿する利益も認められます。これらと、被害者の利益、大きく申し上げて人格権と呼ばれますが、プライバシー権、私生活の平穏、名誉権、肖像権などがぶつかります。
どのように調整するかは個別の難しい問題ですが、結果として取材や報道が違法とされれば、それは刑事上・民事上の問題が生じます。もっとも、表現の自由はその重要性からきわめて厚い保護がなされていますので、被害者が立ち向かうにはかなり高い壁があります。
次に、ひとたび風評被害が発生した場合の回復の難しさをお話します。人の口に戸は立てられずと言いますが、ひとたび歪んだ情報が知れ渡ってしまいますと、完全に回復するのは困難です。たとえ訂正記事や謝罪記事を出してもらえても、それまでの報道と同じような分量の紙面を使ってもらえるわけではなく、連日書き立てられたのと同じようなぺ一スで書き続けてくれるわけでもありません。
メディアの方々には一般市民との圧倒的な力の差と、ひとたび報道被害が生じた時の回復の困難さを十分に自覚されて、商業主義に走り過ぎないよう、自浄能力を発揮していただきたいと思います。被害者を傷つける可能性のある報道は、十分に裏付けを取った上で、真に報道する必要がある情報かどうかを、誇りを持って判断されることが必要です。
そして被害に遭われた方は、マスコミ対応を含めて弁護士に委任されれば、弁護士が盾となって活動しますので、二次被害を最小限に食い止められると思います。費用についても、様々な援助制度等がありますので、是非早い段階での相談をお勧めします。本日はありがとうございました。

徳永恭子氏(神戸新聞社会部デスク)

 まず、犯罪被害者をめぐる報道現場の変化をお話します。
被害者の取材では、当事者だけでなく職場や学校、あるいは親族までうかがいます。以前は、夜遅くなっても家の前に張り付き、時間を考えずに電話を繰り返しかけたり、当たり前のようにしていました。それが最近になってようやく、一般常識に照らした取材というものが浸透し始めています。
ではなぜ変化したのか。それはやはり、被害者のお話を率直に聞く機会ができたからです。被害者の心情、置かれる環境、制度の問題、メディアヘの要望などが、直接的、間接的に表に出てくるようになった。そのことに報道側がやっと気づかされたのではないでしょうか。ただし、すべての配慮ができているかといえばそうではなく、今も課題は多く存在します。
事件が発生した直後というのは、何も分かってない状態です。事実を一つ一つ集める作業を独自にします。警察サイド、容疑者サイドに偏らない報道をするために、どうすればよいのか。あるいは被害者の思いに配慮するということは取材をしないことなのか、それで事実にどこまで迫れるのか、そのジレンマに常に悩んでいます。
 一つの方策として考えられるのは、弁護士の先生や弁護士会に窓口を務めてもらい、定期的に対応してもらうことです。実際にやっていますが、特に発生直後においては有用だと思います。
メディアスクラムについて述べます。現場で、取材を控えてほしいという申し入れが増えています。その場合、記者同士が話し合ったり、報道各社の責任者が集まったりして、取材時間や場所の抑制、代表取材や時間を区切った共同取材などを申し合わせます。ただし、雑誌やフリージャーナリストなどまで足並みをそろえられるかというとなかなか一筋縄ではいきません。
犯罪被害者の二次被害を生み出すことなく、萎縮せずに取材、報道する。両立は非常に難しい。これはマニュアルを決めて達成できるものではなく、日々の取材活動や記事掲載において不断の点検と検討が欠かせないと考えます。
また最近は、新聞社も紙媒体とネット、双方を活用し報道しています。その流れの中で、判明している事実のみを報道する速報ニュースと、検証記事とを分けて伝えることが求められます。事件の背景や被害者の思いをじっくりと時間をかけて取材し、後日掲載する。一つの新しい方向性ではないかと思っています。

コーディネーター 本多修氏(臨床心理士・当センター理事)

 松村恒夫氏の講演は、聴く者に強い説得力と深い感動を伴って迫ってきた。12年前に起こったあの文京区幼児殺害事件と言っても、すぐに思い出せる人は少ない。それが「お受験殺人」という虚偽のキャッチフレーズが付けられると記憶に残ってしまう。松村恒夫氏は、殺された春奈ちゃんの母方の祖父である。行方不明の捜索から遺体発見、犯人逮捕、通夜葬儀をつうじて娘夫婦を支えて来られた方である。聴衆が感動したのは、松村さんが、春奈ちゃんの母親、自分の娘に付けられた間違ったイメージを正し、娘の名誉を回復するために立ち上がり戦われた、その勇気と努力が伝わるからである。週刊誌、テレビのワイドショー、そして大新聞が、被害者である「春奈ちゃん」のお母さんをお受験ママに仕立て、犯人の女性と子どもを介した軋轢が存在したかのようなフィクションを大々的に広めた。それに対して、損害賠償裁判、名誉棄損裁判を通じて、犯人の一方的な殺意による犯罪であることが明らかにされたのである。
週刊誌、テレビのワイドショーそして大新聞は、「お受験」に関する軋轢が犯行の動機で、娘さんは受験だけを第1にする悪母であるかのように書き立て、論じた。テレビが報じ、週刊誌が活字にしてながすこと。それは、被害者が受けた衝撃と心の傷に塩を塗りつけるような野蛮な行為であることに、人々は、なぜ気づかないのであろうか。悲しみに打ちひしがれる被害者遺族にマイクをつきつけたり、事件とは何の関係もない被害者の性格や生育史を報道することにどのような意味があるのだろうか。このことは取材者だけでなく、視聴者や読者が気づき、点検しなければならないことである。
今回のシンポでは、松村氏の講演のあと、被害者・弁護士・新聞社の立場から3人の方にも話してもらった。センターの監事でもある土師さんは「事件の前には正確に読まれることさえなかった名前が、事件後に、正確に読まれるようになった。匿名の一市民としての穏やかな日常を奪い去られた」と言われた。弁護士の木村倫太郎氏は、取材による被害には、早い段階から弁護士がマスコミ対応を引き受けることが出来る。費用は事後に法テラスに相談できるので「是非、弁護士の活用を」と言われた。神戸新聞デスクの徳永恭子氏は、20年前のサツ回りの経験に較べて、今は被害者宅への深夜早朝の訪問をしていない。新聞協会での申し合わせはできるが、東京のテレビ局やフリージャーナリストの規制まではできてない。事件発生直後は、何もわからないゼロから取材しないといけない難しさがあると言われた。
報道の内容の誤りによって被害者が苦しむことのないように、警察発表をうのみにしたり、憶測や想像で記事を書<ことがないように。あるいは、早い素早い記事よりも事件が2度と起こらないためには何が出来るのかという記事にして欲しい。その視点から容疑者サイドだけでなく、被害者サイドの状況も伝えてほしい。そうした点でもマスコミから被害者を守り、また繋ぐことのできる緩衝装置としての弁護士の果たす役割、われわれ民間の被害者支援センターの果たす役割に、ますます期待が寄せられていることを強く感じた。


【topics】
命の授業~今年もあちこち伺いました~

 2011年も4月から新年度の活動が始まりました。12月までに、15校、約4700名の生徒の皆さんにご遺族のお話やデジタル紙芝居を聴いていただきました。
今年度は初めて姫路市や南あわじ市の中学校にも行かせていただき、少しずつ命の授業の輪が広がっています。広い兵庫県ですが、犯罪被害のことや被害者の方々の声を少しでも多くの方々に聴いていただきたいと頑張っています。
詳細は事務局までお問い合わせください。


【topics】広報啓発

 皆様は、神戸市営地下鉄西神山手線県庁前駅に設置してあるショーウィンドーの「ひょうご情報ステーション」をご存知ですか。
当センターでは県の地域安全課のご協力を得て、昨年8月30日から9月8日までと犯罪被害者週間中の11月9日から11月28日までの2回に亘って、センターのポスター、リーフレット等と犯罪被害者自助グループ「六甲友の会」のメッセージボードを展示させて頂きました。
また、犯罪被害者週間中、兵庫警察署のご協力で地下鉄湊川駅の掲示板にも同じように展示させて頂きました。
センターでは、一人でも多くの方に犯罪等の被害者の方の実情や支援団体のことを理解して頂くため、これからも広報啓発活動にも力を入れていきたいと思っています。

次回シンポジウムのお知らせ

 平成24年11月4日(日)シンポジウムを開催いたします。
 センターは今年、設立10周年を迎えます。記念のシンポジウムを11月4日(日)神戸三宮東急インで行います。後日ご案内いたしますのでたくさんのみなさまにお集まりいただきたいと思います。

会員募集

ひょうご被害者支援センターの活動を支える仲間を募集しています。ご協力をお願い致します。
年会費 正会員 個人 5,000円
賛助会員 個人 一口 1,000円以上(何口でも可)
団体 一口 10,000円以上(何口でも可)
郵便振替(おもかげご希望の方もこちらの口座番号へ)
口座番号:00900-3-185412 
口座名義:特定非営利活動法人 ひょうご被害者支援センター

私たちの活動は、 会費や寄付等で支えられています。支援はすべて無料で行いますが、支援員の養成・ 研修・広報啓発活動・事務局の運営などに経費を必要とします。被害者の方が安心して相談できるための活動を理解し、ご支援・ご協力をお願い致します。

このニュースレターは共同募金配分金によって作られています。

発行日: 2012年2月
発行者: 特定非営利活動法人 ひょうご被害者支援センター
事務局: TEL 078-362-7512
URL: http://supporthyogo.org

●編集後記●
 今年度の支援員養成講座が終了し、23年度第11期生支援員4名が誕生しました。
 23年度は、東北大震災の被災者の方たちが「ボランティアの皆さんに話を聴いてもらって少し落ち着いた」等のお話がテレビ・新聞等でたくさん報道されました。「苦しい体験をされた人のお話を聴く」と言うことが改めて見直された年ではないかと思います。
 支援員の募集記事を見たという方達から、「人の話を聴くことはできると思うので応募したい」というたくさんのお問い合わせを頂きました。
 今年は当センターが設立されて10周年の節目の年を迎えます。センターの理事・支援員、センター一丸となって初心に帰り被害者の方たちに寄り添っていきたいと思います。

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